【スマホ版】片桐さんは僕に冷たい。

Circle: プラスカゼットRelease: 2025/01/10
★ 4.67(324 reviews)Sales: 3,703

今回編集部が取り上げるのは、プラスカゼットが手がけたスマートフォン向けプチRPG「片桐さんは僕に冷たい。」である。

評価点4.67点(324件)、販売数3,703本という数字は、この作品が単なる成人向け同人ゲームの枠を超えた確かな支持を集めていることを物語っている。高評価の件数が母数に対して際立って多いという事実は、プレイした者の大多数が「損をしなかった」と感じた証左であり、本誌としてもその理由を丁寧に読み解いていきたい。

本作の骨格は「探索+脱出プチRPG」という形式にある。プレイ時間は50分前後を想定しており、長大なRPGへの敷居の高さを感じるユーザーにも届きやすい設計だ。舞台は「薄暗くて怪しい部屋」という一点。目覚めた主人公の前に現れるのが、密かに憧れている同級生・片桐さんである。ここだけ切り取れば王道の恋愛フラグに見えるが、本作はその期待を開幕直後に豪快に裏切る。コキ使われ、虫けら扱いされ、好感度が上がる余地などそもそも存在しないという状況が、台詞一発で確定する。その落差がコメディとしての爆発力を生み出し、本作の色彩を冒頭から鮮明に定める。

プラスカゼットといえば、これまで恋愛・純愛要素を丁寧に織り込んだ作風で知られてきたサークルである。その制作者が「恋愛や純愛要素が全く息をしていない」と自ら宣言した本作は、ある種の意欲的な実験作として位置づけることができる。恋人エンドも感動の和解も、この作品には一切用意されていない。その潔さは、ある読者には清々しさとして、またある読者には新鮮な驚きとして受け取られるだろう。同一サークルのファンにとっては、制作者の別の顔を覗き見るような体験にもなる。

ゲームデザインの妙は「好感度を下げること」をプレイヤーの目標に据えた逆転の発想にある。通常のRPGやノベルゲームでは好感度を上げることがプレイの動機となるが、本作では意図的にヒロインを怒らせ、困らせ、足を引っ張ることが核心だ。この設計は単なるギャグ的転倒にとどまらず、プレイヤーに「何をしても報われない」という閉塞感と、それを逆手に取る解放感の両方をもたらす。戦闘要素は排除されており、探索とアイテム収集、そして片桐さんとのやり取りがゲームの中心を構成する。アクションが苦手なユーザーにも間口が広く開かれており、この設計判断は販売数の伸びにも寄与しているはずだ。

ヒロイン・片桐さんのキャラクター造形は本作最大の資産である。「口を閉じていればとても素晴らしい女子に見えてしまう見た目詐欺系女子」という公式の紹介文は、このキャラクターの本質を見事に言い当てている。黒髪、豊かなプロポーション、そして圧倒的な態度の大きさ——ビジュアルと性格の落差が作品全体のトーンを支配し、屈辱やホラー的雰囲気といったジャンルタグも、この強烈な個性によって初めて機能している。「雰囲気ホラーなだけで全然怖くない」という作者の言葉通り、ダークな舞台設定はあくまでコメディの背景として機能しており、不必要に重たい印象を与えない。明るさ調整機能の搭載も、スマートフォンという近距離で画面を見る端末の特性を踏まえた誠実な配慮である。

調べられる箇所にアイコンが表示される仕組みも、タッチ操作特有の「どこを押せばいいのか分からない」という迷いを解消する工夫として実用的な意味を持つ。複数のエンド分岐やカード収集といった要素も組み込まれており、短編でありながらリプレイの動機を持たせる構造は丁寧に練られている。ストーリー上、主人公の選択に関わらず発生するシーンが複数存在することは事前に承知しておくべきだが、コメディの顔を持ちながら成人向けコンテンツとしての要素もしっかり担保されているバランス感覚は、プラスカゼットが積み上げてきた経験値の賜物といえる。

短時間でまとまった体験を提供しながら、既存の恋愛ゲームの文法を意図的に解体してみせた本作は、同人ゲームシーンにおける「軽量・尖鋭・完結」という一つの理想型を体現している。評価324件が示す厚い支持は、プレイヤーがこの割り切りを好意的に受け止めた結果に他ならない。プラスカゼットが自らのフィールドを意識的に拡張しようとする意志が、このプチゲームの隅々から滲み出ている——本誌が今号でこの作品を選んだ理由は、そこにある。

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