今回編集部が取り上げるのは、サークル「いずれ菖蒲か杜若」が手がけた異世界転生×性転換ファンタジー『夢想と追憶のエクディキス』のスマホ版である。644本という販売数と、40件の評価から算出された4.5点という高スコアは、同人スマホゲームの市場において決して小さな数字ではない。本誌がこの作品を今月の注目作として選出した理由は、その数字の堅実さと、ジャンルを重ねる際の丁寧さにある。
「エクディキス」という耳慣れないタイトルが、まず読者の目を引くはずだ。ギリシャ語に由来するこの言葉は「脱皮」あるいは「変容」を意味するとされる。性転換(TS)・女体化という題材を扱う本作において、このタイトル選択は単なるエキゾチシズムではなく、物語の核心を一語で言い表す作り手の意図が透けて見える。タイトルひとつで作品の哲学を語れるゲームは、意外と少ない。
本作の舞台は異世界転生を経た先のファンタジー世界であり、主人公は転生という経緯の中で女体化を果たした女主人公として物語をたどることになる。このジャンルの組み合わせ自体は近年の同人ゲームにおいて一定の需要を持つものだが、「いずれ菖蒲か杜若」が際立つのは、その設定をゲームプレイの軸として有機的に機能させている点だ。きせかえ要素がそれを象徴している。変容した自己を纏う衣装として選択し、着飾るという行為は、アイデンティティの再構築というTS作品の本質的なテーマと重なる。単なる着替えミニゲームに留めず、キャラクターの内面と連動させようとするデザイン意識は、本誌が評価したい部分のひとつである。
スマホというプラットフォームの選択も興味深い。同人ゲームのスマホ移植あるいはスマホネイティブ開発は、技術的ハードルの高さから敬遠されがちなジャンルだ。タッチ操作の最適化、縦横画面への対応、描画の軽量化——これらは開発コストを大きく押し上げる要因であり、小規模サークルにとっては判断の要る選択肢である。それでもスマホ版としてリリースしたということは、ゲームとしての体験をより広いユーザー層に届けようという作り手の意志の表れと読むべきだろう。実際、スマホでプレイするきせかえゲームは、PCよりも直感的な操作感を生み出しやすく、本作の方向性とも親和性が高い。
評価40件で4.5点という数字を編集部なりに解釈するなら、コアな支持層がしっかりと存在し、かつその支持が熱量を伴ったものだということだ。粗削りさへの寛容な評価ではなく、作品の完成度そのものへの肯定として受け取るのが自然である。パイパン・貧乳/微乳というビジュアル方向性もまた、一部ユーザーに刺さる明確な個性として機能しており、キャラクタービジュアルのコンセプトが一貫していることを示している。TS・女体化という変容のテーマと、細身で清廉なビジュアル設計は互いを補強し合う関係にある。
644本という販売実績は、ニッチなジャンルの組み合わせを選びながらも、丁寧な仕上げによって一定の市場を掴んだことを示すものだ。異世界転生という大衆的なフォーマットを入口としつつ、TS・女体化・きせかえという体験の深みを重ねた本作は、サークル「いずれ菖蒲か杜若」の作家性が滲む一作として記憶に値する。変容を描くことへの真摯な向き合いが、数字という形で確かな手ごたえを生んでいる——それが本誌の最終的な読みである。
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