今回編集部が取り上げるのは、サークル「kotonoha*」が手がけるAndroid向けロールプレイングノベル『RiSE -囚われ少女の魔法譚-』である。販売数7,135本、評価4.29点(201件)という数字が示すとおり、スマートフォン向け同人ゲームという間口の広さと、物語の密度の高さを両立させた意欲作として、本誌が強く推薦する一本だ。
本作の出発点となる問いかけは、シンプルでありながら奥深い。「もしシンデレラ自身が魔法を使えたら?」——この一行に、作者の創作哲学が凝縮されている。従来の御伽噺が「与えられる魔法」を軸に展開するのに対し、本作は「少女自身が持つ力」という能動的な構造を採用した。魔法が失われた世界という設定がその対比をさらに際立たせており、世界観の構築において作者の丁寧な思索が見て取れる。
舞台となるのは、まっくろ鳥の森の奥に建つ世界一の大富豪・ゴルドール邸の地下牢。そこに囚われた謎の少女は、人を癒す能力を持つという。魔法そのものが存在しないとされる世界で、なぜ彼女だけがその力を宿しているのか。この根本的な謎が物語全体を貫く縦糸となっており、読み進めるほどに「彼女の正体」への好奇心が加速していく構成は見事である。
主人公の自称冒険士の少年というキャラクター設定も、本作の読み心地を左右する重要な要素だ。「自称」という留保が付くことで、彼が完全無欠の英雄ではなく、どこか欠けたところを抱えた人物であることが最初から示唆される。こうした主人公造形の妙が、ノベルゲームとしての没入感を高めている。読者は彼の視点を通じて謎を追うが、その過程で少女の持つ「癒しの力」の意味を何度も問い直すことになるだろう。
ジャンルとしては「魔法」を冠しているが、本作の魔法描写はファンタジー的な派手さよりも、叙情性と象徴性に重きを置いている。魔法が失われた世界における「癒す力」とは何を意味するのか。それは超自然的な現象なのか、それとも人が人に与えられる温かさの比喩なのか。この曖昧さを作品が意図的に保持しているところに、本誌が評価する作家性がある。
スマートフォンというプラットフォームを選択した点も注目に値する。タッチ操作に最適化されたUIと、通勤・通学などの隙間時間に少しずつ読み進められるテンポの調整は、Android版ならではの強みだ。7,000本を超える販売数は、スマホゲーム市場でこの作品がどれほど広い層に届いたかを物語っており、PC版をリリースした後にAndroid版を展開したことで、新たな読者層を確実に取り込んだことがうかがえる。
評価201件で4.29点という数値は、単に高評価が集まったというだけでなく、プレイヤーがきちんと最後まで作品と向き合い、感想を残したくなるほどの完成度があったことを示している。同人ゲームにおいて評価件数が多いことは、作品が口コミで広がり、プレイヤーのコミュニティの中で自律的に語られ続けた証拠でもある。
物語の核心にある「幸せを見つける」というテーマは、一見すると陳腐に聞こえるかもしれない。しかし囚われた少女、魔法が消えた世界、自称という留保を持つ冒険士——これらの要素が絡み合ったとき、幸せを「見つける」という行為がいかに切実で、いかに困難な旅であるかが立体的に浮かび上がる。kotonoha*というサークルが、この作品を通じて問いかけるのは、与えられるものでも、誰かに救われるものでもない、自ら掴み取る幸福の形である。スマートフォンの画面の中に、その答えを求めて旅する価値は十分にある。
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