今回編集部が取り上げるのは、愚痴ヲタ畑による意欲作「新生 むっち無知 田舎性活 ~過ぎ去った時を求めて~」のスマートフォン版である。販売数1,667本、評価4.55点(91件)という数字が示すとおり、同人ゲーム市場においても確かな支持を獲得した一作だ。
本誌がこの作品を特集として選んだ理由は、単なる数字の優秀さだけではない。「むっち無知」というシリーズが積み上げてきたブランド力と、今作でその世界観を根本から作り直すという制作陣の覚悟にある。第一部はシリーズ原点となった前作のフルリメイクとして構成されており、イラスト・ストーリー・登場人物のすべてを刷新。いわゆる「リマスター」ではなく、骨格だけを残した完全な再建築と呼ぶべき仕事量だ。新規プレイヤーが手に取っても既存ファンが改めて向き合っても、どちらにとっても新鮮な体験として機能するように設計されている点は、シリーズ物のリメイクにありがちな「既存ファン向けの懐古コンテンツ」という罠を巧みに回避している。
物語の中心に立つのは、ヒロイン「ゆたか」である。小柄でやんちゃ、男友達に囲まれて育ったという背景が、彼女の根幹にある。夏休みを境にグラマラスな体型へと急激に発育したにもかかわらず、本人の内面は何一つ変わっていない。女としての自覚がまるでないまま、薄着で村を歩き回り、混浴銭湯へ飛び込み、外でそのまま用を足す。えっちな行為についても一切の知識がなく、村の住人や友人たちに利用されても気づかない。この「身体と精神の乖離」こそが本作の根幹を支えるコンセプトであり、愚痴ヲタ畑が磨き続けてきた「無知シチュエーション」という独自文法の集大成である。
シナリオの密度には驚かされる。無知シチュエーションに関連するイベントだけで150以上、そこに童貞狩り・ビッチ・憑依といった派生シチュエーションを加えると、総イベント数は210を超える。これほどの物量を一作品に詰め込みながら、ほのぼのとした田舎の日常描写と官能的な展開とを並立させているのは、相当な脚本設計力がなければ成立しない。村というクローズドな舞台設定が、登場人物それぞれの関係性を濃密に積み上げるための器として機能しており、プレイヤーはゆたかの「無知」を通じてコッコ村という共同体全体を体験していく構造になっている。
ゲームシステム面においても、今作は一歩踏み込んだ設計を採っている。「アクションスキル」の導入がその象徴だ。草を刈る、野菜を切る、障害物を押す、高所へ跳躍するといった動作が、探索型ADVとしての奥行きを生み出している。単なるクリック連打で進むだけの静的なゲームではなく、プレイヤー自身がゆたかを動かしてコッコ村を探索するという能動性が、物語への没入感を下支えしている。
第二部では操作キャラクターが姉の「けーこ」に切り替わる。ゆたか単独では踏み込めない場所、発生しないイベントが姉妹の連携によって解放されていく仕組みは、単一ヒロインものの限界を構造的に乗り越えようとする試みだ。母「あや」の異変をめぐる謎解きという新軸が加わることで、物語はほのぼのとした夏の田舎話から、家族の秘密を巡る群像劇へと展開する。リメイクとオリジナルを二部構成で括った判断は、既存シリーズへの敬意と新規創造への欲求を同時に満たすための最善解と言えるだろう。
基本CGは差分を除いて120枚。「おっぱい」「巨乳/爆乳」「黒髪」「女主人公」というジャンルタグが示すとおり、ゆたかのビジュアルは本作の大きな訴求力の一つだが、それだけに依存していないところが愚痴ヲタ畑の誠実さを物語っている。イラストは単なる添え物ではなく、ゆたかの感情や状況の機微を表現するための語り口として機能しており、シナリオとグラフィックが噛み合ったときの没入感は本誌の読者にもぜひ体感してほしい水準にある。
編集部として一点付言するならば、スマートフォンという携帯端末でこの規模のコンテンツを持ち歩けるという点は、今の時代の同人ゲームの楽しみ方を象徴している。通勤や休憩の隙間に田舎の夏を少しずつ旅するような体験が、このゲームには宿っている。愚痴ヲタ畑がシリーズを通じて積み上げてきた「無知」という美学は、今作でひとつの成熟を見せた。この夏、コッコ村という名の小さな世界に足を踏み入れてみることを、本誌は強く推す。
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