【Android版】転生したら魔界でした!

サークル: Yellow Gem発売日: 2022/02/08
★ 4.29(69 件)販売数: 767
作品形式:スマホゲーム

今回編集部が取り上げるのは、Yellow Gemが手がけたAndroid向けスマホゲーム「転生したら魔界でした!」である。販売数767本、評価4.29点(69件)という数字は、同人スマホゲームというニッチな市場においてけっして小さくない存在感を示している。ドット絵・ぷに・つるぺた・ファンタジーというジャンルタグを眺めれば、本作のターゲット層と作風はおおよそ想像がつくだろう。しかしこの作品が持つ魅力は、そのジャンルタグが示す表層よりもずっと深いところにある。

本誌がまず注目したいのは、「コンパクトなRPG」という設計思想の誠実さだ。昨今の同人RPGは、ボリュームへの過剰な期待に応えようとするあまり、冗長なシナリオや膨張した世界観を抱えて自滅するケースが少なくない。その点、本作は明確に割り切っている。「特にストーリーはない」と作者自身が語るとおり、本作はRPGの根幹にある「レベルを上げ、強い武器を手に入れ、新しい街やダンジョンへ向かう」という原始的な楽しみだけを徹底的に磨き上げることに注力している。この潔さは、むしろ一種の美学として受け取るべきだろう。

サイドビュー戦闘という選択も興味深い。フロントビューが主流となった現代のRPGツクール作品群の中で、あえてサイドビューを採用することは、ひと昔前のRPGへのオマージュであり、プレイヤーに懐かしさと親しみやすさを同時に与える演出でもある。ドット絵のキャラクターたちがサイドビューの画面で躍動する様子は、スーパーファミコン時代のRPGを愛した世代には確かな郷愁を呼び起こす。

キャラクター育成と合成ショップの存在も、本作の繰り返しプレイを支える重要な要素だ。レア装備の収集という目標軸と、合成による装備強化という行動軸が組み合わさることで、「もう少しだけ進めよう」という感覚が自然に生まれる。スマホゲームとしてのプレイ体験を考えたとき、この「ちょっとずつ進められる」設計は非常に理にかなっている。通勤・通学の隙間時間に少しずつ育成を進め、次のダンジョンへの扉を開く——そういったライトなプレイサイクルと本作は相性がよい。

本作にはちょっとHなイベントが散りばめられており、それがゲームのスパイスとして機能している。つるぺたキャラクターたちによるドット絵の表現は、過激さよりもかわいらしさを前面に出したもので、エロスとほのぼのとした世界観がうまく共存している。「小さくて平和な魔界」というキャッチコピーが示すとおり、本作の魔界は殺伐とした暗黒世界ではなく、どこかほっこりとしたファンタジー空間だ。Hイベントもその雰囲気の延長線上にあり、世界観を壊すことなく作品全体のトーンを統一している点は評価できる。

作者がRPGツクールを初めて使用した作品である、という事実は本誌にとって見逃せない情報だ。ツールの習熟という試行錯誤の中で生まれた作品でありながら、プレイのしやすさへの配慮が随所に感じられる点は、作者の誠実なゲームデザインへの姿勢を物語っている。完全な一人制作という環境の制約を踏まえれば、この完成度は素直に驚くべきものがある。同人ゲームの醍醐味のひとつは、こうした個人の情熱と試行錯誤の痕跡を作品の中に見出すことでもある。

評価4.29点という数字が雄弁に語るのは、本作が「期待値をきちんと満たす作品」であるということだ。奇をてらった演出や過剰な設定で驚かせるゲームではない。しかし、レトロなRPGの楽しみをスマホという現代のプラットフォームで丁寧に再現し、ちょっとしたHのエッセンスを加えることで独自の個性を確立している。それは地味かもしれないが、確かな手応えのある作り手の仕事だ。

Yellow Gemという個人サークルが「元々はCG集のオマケのつもりだった」と語るこの作品が、いつしか767本という販売実績を積み上げた事実は、同人ゲーム界隈の豊かさを改めて示してくれる。本誌がこの作品に感じる価値は、大作への野心ではなく、小さな世界を誠実に作り上げた職人的なこだわりにある。レトロRPGの文法と現代のスマホゲームの利便性が交差する場所に、この「魔界」はひっそりと、しかし確かに存在している。

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