今回編集部が取り上げるのは、サークル「ハーフトーンドット」が手がけたAndroid向けLive2Dノベルゲーム「ムショクHero」である。スマートフォン向け同人エロゲーという市場において、565本の販売実績と60件の評価から導き出された4.08点という数字は、決して小さな成果ではない。本誌がこの作品を特集するに値すると判断したのは、その数字以上に、作品が持つ物語の骨格と演出への意欲にある。
同人スマホゲームの世界では、エロティックなシーンを前面に押し出すだけで完結してしまう作品が少なくない。しかし「ムショクHero」はその方向性を意図的に避けている。サークルが明言しているように、「古き良き時代のドラマ性のあるエロゲー」を意識したという姿勢は、作品全体の設計思想に一貫して反映されている。エロゲーをエロで成立させるのではなく、物語でも成立させようとする制作姿勢——それこそが本作の最大の特徴である。
主人公の設定が、まず異色だ。投資で生計を立てながらも社会に溶け込めず、借金地獄に陥った無職の男。そこで彼がたどり着いた「刑務所に入れば衣食住が保証される」という逆説的な生存戦略は、荒唐無稽に見えながらも、追い詰められた人間の思考の歪みをリアルに体現している。本誌が注目したのはこの主人公の造形だ。単なる悪役でも純粋な被害者でもない、倫理的にグレーゾーンに立つ人物を主人公に据えることで、プレイヤーは感情移入と嫌悪の間で引き裂かれながら物語を読み進めることになる。こうした主人公設定は商業ゲームですら扱いにくいテーマであり、同人だからこそ実現できた大胆な選択と言えるだろう。
ターゲットとなるヒロイン・なぎさのキャラクター設計も計算されている。主人公から「バカにした女」として標的にされる彼女だが、実際に対峙してみると言動に不可解な点が浮かび上がる。さらに彼女を一方的に溺愛する謎の巨漢が登場するという展開は、単純な加害と被害の構図を崩し、物語を多層的にする仕掛けとして機能している。登場人物それぞれが「どこか他人と違う」存在として描かれており、歪んだ者たちが交差することで生まれる化学反応が、本作の物語の推進力となっている。
アニメ調のビジュアルスタイルを採用しながら、内容としては感動・葛藤・欲望が複雑に絡み合うジャンル構成は、幅広いユーザー層の獲得につながっている。エロティックシーンは全4つ、すべてLive2Dによるアニメーション表現で実装されており、媚薬・青姦・中出しといった要素が視覚的なリッチさをもって描かれる。スマートフォンというプラットフォームでLive2Dをフル活用した演出は、技術的なコストを考えれば同人作品としての努力の結晶と評価できる。動くキャラクターが持つ没入感は静止画とは一線を画し、シーンの情感を底上げする効果を発揮している。
4.08点という評価スコアを支えているのは、こうしたシーンの質だけではなく、「エッチシーン以外でも楽しめる」という点へのユーザーの支持であろう。60件という評価件数はスマホ同人ゲームとしては厚みのあるサンプル数であり、その平均が4点を超えていることは、物語と演出の両立という野心が一定の説得力を持って受け入れられたことを示している。
殺意から始まり、葛藤を経て、予想外の結末へと向かう物語の顛末——その読後感こそが、本作をただのエロゲーで終わらせない要素だ。同人ゲームの可能性を信じる者にとって、「ムショクHero」は手に取る価値のある一作として、本誌の推薦に値する。
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