今回編集部が取り上げるのは、同人ゲームシーンにおいて着実にその名を刻みつつあるサークル・kotonoha*による意欲作、「ラハと魔法の園 -the graystory-」のAndroid版である。販売数は11,215本、評価は493件を集めて4.2点という数字が示す通り、これは単なる話題作にとどまらない。プレイヤーの心に何かを残す作品だけが到達できる水準を、本作は確かに超えている。
舞台となるのは「魔法界」と呼ばれる異世界。17歳以上の魔法生を育成する魔法学校の門前に、記憶を失った状態で倒れていた少年・ラハが物語の起点だ。学院長に保護され、学院という共同体へと引き込まれていく彼の視点を通じて、世界観が丁寧に、しかし息苦しくない速度で解き明かされていく。この導入部の設計は見事である。記憶喪失という古典的な装置を使いながら、プレイヤーもラハとともに「知らない世界」を同時に体験できるよう計算されており、説明的なテキストの羅列に陥ることなく没入感を自然に高めている。
ラハを取り巻く人物造形もまた、本作の大きな魅力だ。魔法生でありながら落ちこぼれと呼ばれるチャタは、いわゆる「努力型の主人公の友人」というポジションに収まりきらない複雑さを持ち、読み進めるほどその存在感が増していく。対照的に配置された天才魔法生のサリィは、その能力の高さゆえの孤独と、ラハとの関係性の変化がサブテキストとして丁寧に織り込まれており、単純な優等生キャラクターとは一線を画す。この二人との交流を軸に展開される学院生活のエピソード群は、楽しさと切なさが絶妙なバランスで配合されており、ジャンルを「魔法」と一言で括ることへの抵抗を感じるほど、感情の幅が広い。
本誌が注目したいのは、ゲームとしての形式の選択である。本作はロールプレイングノベルという複合ジャンルを標榜しており、ノベルゲームの読み応えとRPGとしての成長体験を両立させようとする試みだ。ラハが魔法を習得し、成長してゆくという縦糸の物語は、プレイヤーの操作や選択と連動することで、単なる小説を読む体験とは異なる「自分がラハとともに歩んでいる」という感覚を生み出す。スマートフォンというプラットフォームへの最適化も、この体験の質に貢献している。短時間の移動中にも物語の続きを追える携帯性は、一度引き込まれれば生活の隙間に物語が侵食してくる種類の中毒性を生む。
そして本作の核心は、ラハの記憶に封じられた「意外なる真実」にある。この点について多くを語ることは無粋であるが、編集部としてひとつだけ言えることがある。それは、この作品が「どこへ向かうのか」という読者の期待を、予測可能な方向には裏切らないということだ。4.2点という高評価が493件もの評価から導かれているという事実は、この結末に向き合ったプレイヤーの多くが、裏切られたのではなく、むしろ深いところで満足を覚えたことを示唆している。楽しい場面と切ない場面が交互に訪れると謳われた本作の物語が、最終的にどのような色彩でプレイヤーの記憶に残るか——それは、手に取った者だけが知る。
kotonoha*というサークルが本作において示した物語設計の誠実さと、キャラクターへの愛情の深さは、同人ゲームという表現形式が持つ可能性を改めて問い直させる。商業的なスケールとは異なるところで磨き上げられた、丁寧な物語の手触りがここにある。11,000本を超える販売数は、その手触りを確かめた人々の数である。
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