今回編集部が取り上げるのは、ズクロスが手がけたAndroid向けスマホゲーム「こちょこちょハピネス」である。くすぐりというニッチでありながら根強いファン層を持つジャンルに、屋外と緊縛という要素を組み合わせた本作は、516本という販売数が示す通り、確かな需要を掴んだ一作だ。評価は28件から算出された3.29点と、お世辞にも高水準とは言い難いが、それでも500本超という数字が積み上がっている背景には、このジャンルに特化した作り手の姿勢と、その嗜好を持つプレイヤーとの確かな接点がある。
くすぐりというフェティッシュは、同人ゲームの世界においても長年にわたって独自のコミュニティを形成してきた。過度な暴力描写とは異なる、柔らかくも抵抗できないという状況の妙味が、このジャンルの根底にある魅力だ。「こちょこちょハピネス」はその本質を素直に追求しており、ゲームタイトルからして方向性がぶれていない。「ハピネス」という言葉が示すように、作品全体のトーンは過度に攻撃的ではなく、くすぐりという行為がもたらす笑いや苦悶の混在した独特の情景を楽しむことを主眼に置いている。
本作の構成上の特徴として注目したいのが、屋外という舞台設定である。密室ではなく開放的な空間を選んだことで、「見られるかもしれない」という羞恥の要素が加わり、緊縛との組み合わせがより重層的な状況を生み出している。緊縛によって身動きが取れない状態でくすぐられるという構図は、このジャンルの定番でありながら、屋外という環境がそこに緊張感の一段を加えている。屋外露出的な文脈をくすぐりと掛け合わせる試みは、同種の作品群の中でも差別化の軸として機能しており、ズクロスの作品設計における意図が読み取れる部分だ。
スマートフォンという媒体を選択していることも、本作を語る上で見逃せない点である。PCではなくAndroidネイティブで提供されることで、プレイ環境の自由度が大幅に高まる。こうした嗜好性の強いコンテンツをスマホで手軽に楽しめるという体験の設計は、現代の同人ゲームが向き合うべき課題のひとつだ。ズクロスがAndroid版として本作を展開したことは、より多くのプレイヤーにリーチしようとする作り手の意識の表れであり、ジャンルの裾野を広げる試みとして評価できる。
評価点数3.29という数値について、編集部として一言添えておきたい。28件というレビュー数は、作品の評価を統計的に安定させるにはやや少ない母数であり、数点の低評価が平均を押し下げている可能性は十分にある。くすぐりジャンルに特化した作品は、そのジャンルに感度の高い層には刺さる一方、好奇心から手を伸ばした層にとっては期待値とのずれが生じやすい。516本という販売数がこの評価点と共存している事実は、コアなファンが確実にこの作品を求めていたことを意味している。数字の読み方次第では、これは決して失敗作ではなく、特定の需要にきちんと応えた作品として位置づけられる。
同人ゲームというフィールドは、メジャーな商業タイトルが踏み込みにくいニッチな嗜好を丁寧に掘り下げる作り手たちによって、その多様性が保たれている。くすぐりというテーマひとつを取っても、シチュエーション・表現の強度・キャラクターの属性など、作り手によってアプローチは千差万別だ。ズクロスの「こちょこちょハピネス」は、そうした多様性の一端を担う作品として、この特集号に相応しい一本である。万人向けとは言えないが、このジャンルを愛するプレイヤーにとっては、スマホという手軽な環境で手に取れる選択肢が増えたという事実そのものに価値がある。作り手とプレイヤーの間に生まれる細くとも確かな繋がりこそ、同人ゲームの本質的な豊かさだと本誌は考える。
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